秘密の地図を描こう

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 レイからのメールに気がついたのは夜も更けてからのことだった。
「……困ったね、これは」
 彼のことを恨んでいるであろう人間がいることは想定の範囲内だ。しかし、それがオーブの人間だと言うことは考えたこともない。
「さて、どうしたものかな」
 現状ではアカデミーが一番安全なのだが、と続ける。
「何が、だね?」
 興味を引かれたのか。ラウが問いかけてきた。
「キラ君――というよりはフリーダムかな――に逆恨みをしている少年がいる、と言うことだよ」
 レイのそばにね、とため息をついてみせる。
「逆恨み、ね」
 本当にそうなのか、と言外に彼は問いかけてきた。
「逆恨みとしか言いようがないと思うよ。オノゴロでの戦闘の際に自分の家族を守ってくれなかったから、だそうだ」
 あの戦力差では全員を救うことは難しいだろう。少なくとも、自分はそう考える。
「まぁ、個人的な感情は否定しないがね。アカデミーの学生であればそのくらいは理解してくれないと困るのだが」
 民間人であれば、まだできることとできないことの区別が付かなくてもわかる。だが、アカデミーの学生ならば可能かどうかの判断をつけてくれなければ、とため息をつく。
「レイだけではなくアイマン君達が動いてくれているらしいがね。何をしても納得してくれないそうだよ」
 何を言われても『守ってくれなかったのに』の一言で終わらせるらしい。そう続ける。
「彼自身、守れなかった人がいることを気に病んでいるのにね」
 ほとんど、それはトラウマだと言っていいのではないか。
「……それに関しては、私にも責任があるのだろうが」
 ため息とともにラウが言葉を口にする。
「しかし、それで何かの時に動けるのかな?」
 彼は、と続けた。
「そのような状況にならないように努力しているつもりなのだがね」
 苦笑とともに言葉を告げる。
「だが、彼の場合、その状況になったら動くだろうね」
 例え自分が傷ついたとしても、と眉根を寄せた。
「そんな彼だからこそ、周囲の者達が何とかしようと動くのかもしれないが」
 それでも、彼の力を必要とするときが来るのではないか。そんな予感がある。
「確かにそうかもしれないが……」
 さて、どうしたものか……とラウも呟く。
「相手の方を切り捨ててもかまわないのであれば、いくらでも方法はあるが……それでは、レイが納得しないだろうね」
 この言葉にギルバートは苦笑を深めた。
「確かに。もっとも、あのこの場合、どちらかを『選べ』と言われたらキラ君を選ぶと思うよ」
 自分達とキラであれば悩むかもしれないが、と続ける。
「だが、それでは彼がまたあれこれと考え込むだろうね」
 その結果、プラスに向かうのならばいい。だが、キラの場合、マナスにしか進まないだろう。
「いっそのこと、誰かを立ち会わせた上で話をさせるのが一番かもしれない」
 アフターケアが大変かもしれないが、とラウは言った。
「……確かに。彼と話をすれば一番手っ取り早いだろうが……」
 問題は、そのせいでキラの体調がまた不安定な状態に戻らないかどうか、だ。
 彼の体調は精神状態に大きく左右される。あるいは、それは彼が人工子宮から生まれた弊害なのかもしれない。あるいは、ユーレン・ヒビキのコーディネイトのせいか。
「我々ならば、最初から覚悟の上での行動だったのだが、彼の場合は違うからね」
 何の心構えもないまま戦場に放り出された。その責任は間違いなく自分にあるのだろうが、とラウはまたため息をつく。
「その上で、あえて言わせてもらえれば……やはり、彼はその少年に会うべきだと思うよ」
 逃げていたとしても何にもならない。それよりは、とラウは言う。
「……ラウ?」
「本人に会えば、その少年にも自分が逆恨みをしているとわかるだろう。キラ君のことはお前たちがいれば大丈夫ではないか?」
「……そういう君は傍観するだけかな?」
 彼の言葉にそう聞き返す。
「必要ならば手を出すが……私が出るまでもないような気がするがね」
 それでも、と言われてギルバートは考え込む。
「そうだね。いざとなれば君がんばってくれる……と言うことでレイを説得してみよう」
「……ギル」
「がんばってくれるんだろう?」
 微笑みとともに言い返せば、彼はため息をつく。
「仕方がない。彼は命の恩人だからね」
 本当に素直ではない。そう指摘をしたいが、したらしたで彼はさんざん騒いでくれるだろう。
「そういうことにしておくよ」
 だから、こう言うだけに納めておいた。

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最遊釈厄伝